谷・根・千

とまりぎ

2006.8.25

暑気払いで地下鉄根津駅に集まった5人は、地上の交差点に出ると眩むような日差しとむっとする暑さに面食らった。今回は根津の地に18歳まで住んだという松っさんが谷中、根津、千駄木界隈を案内してくれる趣向だ。

まず"不忍通りふれあい館"で、べっ甲細工、彫金など地場の伝統工芸について勉強してから躑躅でも有名な根津神社に参る。本殿が千駄木の旧地より現在地に造営され今年で三百年を迎えるとのことで「御遷座三百年大祭」が9月に斎行される。根津権現ともいわれ社殿等は国の重要文化財となっている。乙女稲荷社のいく本もの鳥居をくぐり抜け、さらに駒込稲荷社を抜ける。根津裏門坂を上ったところの老舗の蕎麦屋で昼食。蕎麦もよかったがその前のビールがことのほか旨かった。ふたたび根津神社をもどり、大正8年の木造建築で関東大震災や東京大空襲にも生き残ったという有形文化財の根津教会を見る。お化け階段を上がって進と"弥生式土器発掘ゆかりの地"の碑がある。弥生坂を下る。ふたたび根津駅交差点をすぎ、これも根津の目玉のひとつの木造三階建ての串揚げ家を見る。路地を楽しみながらといっても暑くてしかたない。ここらあたりが松っさんの住んでいたところであるという。細密ペン画の杉山八郎さんの家の前をとおり、甘味処で休憩。松っさんお薦めの自家製2色アイスでひと息ついた。あかじ坂をあがって大名時計博物館に行ったが夏の間休館とのことで残念。ちょっと戻って染物屋さんに入る。洗い張りや仕立てやさんだが、店では手ぬぐいや袋物などこまごましたものも商っている。明治28年の創業当時の建物でしっかりした造りである。木造りの下ろし戸、今で言うシャッターであるが、大変めずらしく店に入って一見しておくといい。

へびみち(旧藍染川の上)を通って千駄木駅交差点に。さらに団子坂を上る。観潮楼跡鴎外記念室は森鴎外が明治25年の30歳から他界するまでの30年間を居住した跡で文京区立本郷図書館のあったところだ。東京湾がながめられ鴎外は「観潮楼」と名づけた。この記念室は鴎外の人となりや当時の生活ぶり、交友関係などゆかりの品々も豊富で充実した展示となっている。また団子坂をもどる。

よみせ通りに入ってすぐ、脇道の奥まったところにある"指人形工房"をちらっと覗いて戻り、10円饅頭屋さんに立ち寄る。ひとくち大の薄皮饅頭でお土産に買う。それから谷中銀座商店街へ。テレビでも紹介されたようだが、間口の狭い店が続く昭和の懐かしい商店街とのこと。時間が早かったせいか賑わいはいまひとつ。コロッケかメンチを食べながら歩くのがはやりだそうで、試してみたがどうということもない。"ゆうやけだんだん"の手前を右に折れ岡倉天心記念公園に向かう。風もそこそこあり、だいぶ日差しもゆるんできた。公園はあまり手入れが行き届いていないようだ。日本美術院や日本近代美術の先駆者、岡倉天心の旧居があったところだそうで、小ぶりの六角堂の中には金色の岡倉天心坐像が安置されていた。公園を出てすぐの観音寺の築地土塀は長く立派である。谷中墓地をつっきり谷中五重塔跡でひとやすみ。木陰でもあり風もあって涼しい。たくさんの鳩がえさを漁っている。

日暮里駅ビルの居酒屋でゆっくり暑気払い。駅前のあざやかな手さばきの中国手打ラーメンを仕上げに散会した。

谷・根・千は寺や坂が多い。昔から文士らが愛した地でありその事跡が多い。歴史の地であり見所満載というところだ。松っさんから記念にと杉山八郎さんの絵はがきまでいただいた。どれも今日歩いたところが描かれている。計画から万端お世話になり感謝。

今夏で一番暑い日であったという。めげずに歩いたものだ。