中野 章
1999.8.16
学生3人に引き連れられてのメキシコ市内探訪も3ヶ日めとなり今日が最後の日となった。
というわけで、今日のおヒルは日本食ということになった。
学生達に聞くと日本食は食べた事がないとのことである。
「スシ」「てんぷら」の言葉さすがに知っていた。
電話帳をみると市内には世界各国のエスニック・レストランがあり、かなりのページ数を占めている。そのなかで日本料理店も頑張って数十店を数える。
某関西洋酒メーカー経営のチェーン店もある。何処にしようかとあれこれ考えたが結局地の利のよい市内随一の繁華街「ソナ・ロサ」地区にある「T」なる店に入る。店の構えと玄関口の水車がいかにも日本料理屋でございと主張している。
午後3時ごろ、丁度メキシコのお昼時である。席はほぼ満席であったが、運よく待たされる事も無く席に有り付く。
店を差配しているのは日本人の主人と女将のようである。ウェートレスは全部メキシコ人である。
客筋を観察するとほとんどが土地の人である。場所柄サラリーマン風が多い。みんな器用に箸を使っており、慣れたものである。
日本人といえば私と若い日本人グループ一組のみである。
メニューは、スシ、てんぷら、刺身、焼き鳥と和食なんでも御座れである。
日本食を食べた事のない学生諸君に「何にする」と聞いても詮無いことなのでスシ、てんぷら、刺身、串焼き、冷奴等を一品ずつオーダーし、お銚子を添えて、まずは食べてみようとなった。むろん箸を使うのは初めてのようで、どうにか「てんぷら」のような摘み易いものはよしとして、刺身はうまく掴めなくて苦労していた。味はほぼ日本風であった。学生達に「味は」と聞けば「デリシオソ」(おいしい)と異口同音に答えが返ってきた。満更お世辞ではないようで、ホットした途端チョットした異変が起こった。学生の一人が突然立ちあがり目を白黒させている。何事かと聞くと、「ワサビ」の塊を指差している。どうやら「ワサビ」の盛りつけを一口で頬張ったようだ。慌てて水を飲ませ、落ちついたところで「ワサビ」の使い方を教えたが後の祭である。気の毒なような、可笑しいような一幕で、始めに注意してやればと、思ったものの、考え様によっては、お互い良い思いで話になったと納得しあった。
以後順調に食事は進捗したが、どうやら彼等のとりわけのお好みは日本酒と「てんぷら」「串焼き」のようであった。
勘定はといえば、日本円で一万円程度、エスニック料理店は何処に行ってもやや割高であるのが普通だが、東京での比較からすれば半分程度か?勘定を払って出ようとすると、女将さんが「どういうご関係ですか?」と聞く。日本人のオッサンと学生風の若者3人の組み合わせが珍しく映ったのであろう。