柿崎 純一郎
1998.10.15
子どものころはよくひもじい思いをした。終戦後、昭和20年代の日本人の大半は食べるために生きていたと言ってよいだろう。今の5、60才代の大方は、慢性空腹症候群の文字通り餓鬼の世代の経験者だ。一転、現代は飽食の時代、おいしい物を食べては太りすぎに悩み、ダイエットにお金をかけるようになってしまった。食べなければやせるのは理の当然。ならば、断食をしてはどうだろう。崇高な修行をしている気になるし、お金もかからない。少し長くなるが断食のお作法を紹介しておく。
やってみれば意外に簡単、期間中は食事がいらないぶん時間がたっぷり、かえって充実した1日が送れ、何の不都合もない。
手ごろな、8食抜き4日間コースは以下のとおり。
『初日の朝、おかゆからスタートします。量はさっと一膳、おかずは梅干し一つ、それに お茶。これが当面の最後の食事です。以後初日の昼・夜、2、3日目の3食全てを抜きます。おかゆは徐々に消化されて、空腹感に変わるタイミングを逸してしまい、期間中空腹感はほとんどありません。とは言っても、水とお茶の摂取はいつでも自由、ちょっと口が
さびしいので食事時間には小梅1、2こを口にすることを許します。これ以外はなにも口にしません。喫煙者はこれを機会に禁煙してしまうのがベターですが、本来の主旨からはずれますので、無理強いはしません。便通が悪くなりますので漢方の便秘薬を用法にしたがって服用してもよいでしょう。もっとも3日目は出るものがなくお腹はからっぽ、ふだ
ん腹黒い人もおなかの中は真っ白になっているはずです。そう思うとすがすがしい気分です。
大事な事は、断食中は通勤、仕事、運動など日常生活を普段と全く同じにすることで す。従って周囲の人は、言われなければあなたが断食中であるとは、気が付きません。
断食の終了は4日目の朝、初日と同じようにおかゆで始めます。昼はうどん等消化の良 いものをゆっくり食べて胃や腸を復調させます。夜は普段と同じ物を適量、アルコールも 少しはいいでしょう。これでコース終了、明くる日からはなんでもどうぞ。』
作法は以上。目は澄んで柔和な顔になり、これで3~4キロは確実にやせられる。
ただし、当分のあいだ身体は自衛上以後の絶食状態に備え、食べ物の摂取効率がよくなっ てしまうので、前より食事量を控えること。ダイエットに断食が積極的に利用されないの はこのためで、油断すると体重はすぐもとに戻るどころか、かえって増えたりする。いわ ゆるリバウンドである。
実は、断食の主眼はダイエットではなく、数日間なにも食べなくとも(水は必要だが) 全く普通の生活ができると言う、体験に基づいた自信がもてることにある。実際、この8 食抜きを一度やってみれば、一週間程度は食べなくとも大丈夫ということがすぐに納得で きるはずである。
阪神大震災では食料の配給が遅れ、2日間なにも食べていないと怒っていた人が多かっ たが、断食経験があればまだ2、3日は平気で、子どもは別にして、なにも大人が怒る程 のことはなかったのである。震災の備えに食料備蓄は不要、断食で鍛えておいた方がはる かに経済的で手っ取り早い。涼しくなったので一度お試しあれ。