今が好き♪
2001.6.1
メートル法施行前の昭和33年12月末まで、長さの単位は尺(しゃく)、重さの単位は貫(かん)が度量衡の基本単位であった。文字通り、尺貫法と呼ばれていた体系である。尺といえば通常、10/33m(ほぼ30.3cm)と規定された曲尺(かねじゃく)のことで、現在でも木材等の測定用として建築に使われている。一方、布の測定に使われる尺は鯨尺(くじらじゃく)と言い、和裁の世界では健在である。いずれも10分の1尺の長さは1寸、鯨尺8寸が曲尺の1尺に相当するから、同じ単位でも鯨尺の方が25%も長いことになる。
大工さんの使っているL型のものさしのことを差金(さしがね)と言うが、曲尺とも呼ばれている。これが計算尺にも劣らぬ優れもので、直角の測定や墨つけはもとより「円に内接する直角三角形の底辺は円の中心を通る」ことから丸太の中心を割り出してその直径を測ったり、その丸太から取れる角材の1辺の長さを知ったりすることが簡単にできる。秘密は実寸を刻んだ表面に対し、裏面(Lの形に見える面)に実際の√2(ルート2)倍の目盛り(裏目)が振られていることで、直径を裏目で測ると、「円に内接する直角二等辺三角形の底辺を√2で割れば等辺1辺の長さが求まる」ことから、目盛りは丸太からとれる角材(正方形)の最大幅を示すことになる。更に、裏目(Lの外側にふられている)の内側に円周率倍した目盛り(丸目)を持つものもあり、こちらで直径を測れば丸太の外周が得られる。その他、直交する2つのものさしから、屋根などの勾配、水平1尺に対し、昇り3寸(3寸勾配)など三角比tanの値が簡単に求まるといった具合。実はこの裏目、我が国独特の目盛りで、他に類を見ない。残念ながら発明時期、発明者ともに不明である
さて、鯨尺。鯨のヒゲから作られたのが名前のおこりとか。着物1着を作る布地の長さを着尺(きじゃく)と言い、長さは1反(たん)である。鯨1尺は約38cm、1丈(じょう)=10尺、1反=3丈となる。従って1反は約11.4m。和裁はこれで老若男女、原則として誰の着物でも作る。布の幅は9寸5分(36cm)が標準であった。近頃は体躯の向上で1反では足りず、12~12.5m、幅も1尺以上のものが着尺として使われ、ワイドサイズとかキングサイズがある。参考までに、袋帯の長さは1丈2尺、それより短い名古屋帯は9尺5寸となっている。
長さの話から外れてしまうが、日本文化の代表格、きものについて少し。きものは1反の布から無駄なく裁断され、手縫いが基本で仕立てられる。直線裁ちに直線縫い、ぬいしろを切ってしまわないため、出来上がったきものをほどいて縫い合わすと、また元の反物に戻すことができる。究極のリサイクルシステムがここにあったのだ。洋服のリフォームでは小さいサイズにしかできないが、きものは一旦ほどけば、また1反‥‥にかえり、大きいサイズに仕立て直すことができる。どんなきものでも、体の太い細いは前身ごろの重なり具合で、背丈の長短は帯の中で裾上げ調整、袖丈も肩上げなどの方法で体格に合わせられると言う超フリーサイズである。収納性も抜群、肩パッドも、曲線、立体縫製もないため、たたみ易く、しわにならない、かさばらないで、シンプル イズ ベストそのもの。
きものに限らず、現代に生きる江戸の知恵、探せばいくらでもありそうだ。