今が好き♪
2000.6.1
車を買い換え、今度はカーナビゲーションを装備しました。便利この上ない、と言うのが偽らざる感想です。目的地までの地図はもちろん、距離・到着予想時刻の表示、音声による右左折ガイドもついて、初めての行き先でも何の苦もありません。おかげで、だんだん道音痴になって行きます。新しい道を覚えようとしなくなりました。あらかじめ地図を調べる機会も減りました。何より困るのは、カーナビなしの運転が不安になってきたことです。
カーナビだけではありません。ワープロのおかげで、漢字が書けなくなりました。調べものはインターネットの検索頼み、書いたり、記憶したりする必要がなくなりました。朝、空模様で天気を判断できなくなりました。テレビが頻繁に天気予報を流します。牛乳も肉も匂いで食べられるか、あぶないのか決められる人が少なくなりました。賞味期限表示で決めれば簡単です。今、こんな例がいたるところに見られます。便利さの裏で、思考力・判断力など営々と育んできた私たちの能力がどんどん失われていくように思えます。これで良いのでしょうか。
さて、カーナビも正確な地図が無ければ、人工衛星を利用したGPS(全地球測位システム)で算出した現在地を地上にプロットすることができません。わが国では、建設省国土地理院が航空写真測量によって国の基本図を作成します。近頃では、GPSあるいは人工衛星レーザー測距観測も併用し、ミリ単位の測量も可能となりました。基本図は2万5千分の1の地形図、全4430面で日本全土をカバーします。文字どおり、国と民間で作成されるさまざまな地図の基本となっています。
正確な測量技術の発展で、精度の高い地図ができるようになりましたが、この過程でなんと、旧東京天文台跡の港区麻布台に置かれた、わが国の測地原点(東経139度44分40秒5020 北緯35度39分17秒5148)に大きな誤差があることが分かりました。原点ですから慎重精密に経緯度を測定したのでしょうが、なにせ明治期、陸軍参謀本部陸地測量部なるところが天文測量で決めたということですから、測量精度は現在と較ぶべくもありません。100年以上も原点が再測量されなかったとは驚きですが、結局、正規の位置より南東に460mほどずれていました。つまり、GPSを基準とした世界測地系の経緯度に日本を乗せると、今までより北西に460m移動したところが本来の位置であったことになります。全国土がアジア大陸方向に移動し、日本海が狭くなったとも言えます。
この日本の測地原点を基準に作られた日本地図に、GPSで求めた世界測地系の経緯度を重ねたカーナビでは、太平洋側の海岸線に沿った道路は全て海の上、車は海に誘導されてしまいます。そのため、わが国で使用されるGPSの経緯度はカーナビに限らず全て両測地系の誤差を補正して利用されています。国土地理院では日本地図を世界測地系に置き換える作業を計画中ですが改定完了の時期はまだ示されていません。将来、世界測地系の日本地図をカーナビに移植する場合、現行GPSの補正を解除しなければ、今度は日本海に誘導されてしまいますから要注意です。
どこもかしこもインターネットにデジタル制御、ますます加速されるコンピュータ漬けの世界、なにか落とし穴が隠れているようで、とても手放しで喜べません。